とにかく忘れたかった。あたしは忘れたくてどうしようもなかった。
何か大切なものを、忘れたかった。
忘れてしまえたら、もしも忘れてしまえたら、あたしは泪を流しただろう。
泪と友達になれただろう。
どこか遠くの真っ白な駅に忘れてきたものを、あたしは返してもらうことができただろう。
何かを忘れて、何かを知りたかった。
薔薇のピアスはまだ左耳でゆれていて、停まることはない。
あたしは今日もギターを握って、唄っている。
大切な何かを忘れないための唄を口にしている。
緑の黒髪が素敵だった頃は、口付けを欲していた。
逃げ切れなくなるまで、逃げたくなくなるまでには。
忘れたかった意識も、忘れてしまえるかな。
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